めがね(3枚組) [DVD]

めがね(3枚組) [DVD]

荻上直子監督「めがね」を見た。「スローで、ゆったりとした気持ちになれる映画」という感想も、「スローライフ押しつけの宗教映画」という批判もどっちも違うと思う。
ぱっと見のストーリーはこんな感じ。島の民宿に小林聡美がやってきて、最初は島の「スロー」な感じになじめずにいるが、だんだん打ち解けてきて終了。めでたしめでたし。
都会の社会性のかたまりみたいな小林聡美と、素朴でのどかな島のくらし。「たそがれ」ることが大切な島。かき氷屋でかき氷を食べてお金を払おうとする小林聡美(等価交換)と、何かとの交換(マンドリンを聴かせるとか)でやってるからお金はいらないというもたいまさこ(贈与交換)。「スロー」な島の人びと!繰り返す死と再生!
うわーちょうつまんない。素朴なロマンチシズムを信じる人が見るといいよ。料理やカトラリーなどのガジェットが効いただけの映画。ご飯はおいしそうだけど。
でも、なんで登場人物が全員、文明の利器であるめがねをかけているのかを考えると、そんな単純なお話じゃないとわかる。大人がこういう素朴な遊びに昂じるには、「めがね」をかけて視界をゆがませないといけない。そういう寓意がこめられているんだと思った。赤と緑のセロファンでできた3Dメガネをかけてやっとモノが立体的に見えるように。その証拠に、そんなフィルターをかけなくても素朴な遊びにジャック・インできる(ってことになってる)島のこどもは誰一人めがねをかけていない。あと、小林聡美が島を去るために空港に向かうシーンでめがねを落とすのは、さあ遊びは終わりで現実に戻りますよ、という意味だと思う。
ついでに、登場人物は島以外では何をしているのかがまったく描かれていない。小林聡美しかり、加瀬亮しかり、春になると島にやってくるもたいまさこしかり。つまり、バックグラウンドを剥ぎ取って匿名の人になって、さらにめがね(フィルター)をかけて初めて、素朴でロマンチックな遊びに昂じられるということなんじゃないか。見ず知らずの匿名の人と一室に集まって、スクリーンを凝視して映画のなかに没入するみたいにね(ここまでは意図してないだろうけど)。大人は悲しいですな。
つうことはいちばんのセールスポイントである「スローライフ」な感じはじつはただのごっこ遊びで、おいしそうな料理やかき氷といったガジェットは単に砂上の楼閣もしくは3Dメガネをかけてやっと立体に見える恐竜の絵のようなもんか。なんともひねくれた映画ではないですか。